「自分で言っといて忘れるって、何考えてんの?」
あたしは三谷の自転車の後ろに乗せてもらって、只今帰宅途中。
「うっせーなぁ。文句ブチブチ言ってんじゃねーよ」
「何それ!あたしはちゃんと5時に自転車置き場に行ってたのにっ」
「だから謝ってるじゃねーか」
「口だけね!その態度がむかつくって言ってんの!!」
「だからそーやっていちいち突っかかってくるのがむかつくって言ってんだっ!!」
三谷が後ろを向いたから、顔がすごく近くなった。
…ヤバイ。三谷、すっごい顔整ってる。
「あーっ、カップルだぁ」
「ひゅーひゅー」
公園で遊んでいた小学生達が口々に言った。
「なっ…っ」
「うっせーぞガキどもが!」
三谷が言うと、小学生達は囃し立てるのをやめた。
まだにやにやしてるけどさ。
「あーぁ。嫌だなぁ、あたし」
「何が」
「自転車に二人で乗ってて、周りから見たら思いっきりあれカップル?みたいな感じじゃん!」
「知るか」
「…とりあえずスピード上げろ」
「事故りてーのかお前は」
「とにかく早く帰りたいのーっ!」
「あら、その子が香恋ちゃん?」
「…え?高杉って顔に似合わず香恋とかいう名前なわけ?」
三谷が真顔で聞いてきたから、あたしはとりあえず殴っておいた。
「はい。あたしが高杉香恋です」
「よろしくね、香恋ちゃん。あ、そうだ。部屋には荷物も運んであるし、早く行って整理するといいわ。康輔、部屋まで連れて行ってあげて」
「…しかたねーなぁ」
「こんな不器用な子だけど、よろしくね」
「はい」
あたしは無理矢理笑顔を作って言った。
「ん。ここがお前の部屋」
二階には2つ部屋があった。そのうちの一つをさして三谷は言った。
「ねぇ、一つ質問なんだけど、お向かいの部屋は誰の部屋?」
「俺」
「…何それ。嫌がらせ?」
「いや、お母にそんなつもりないと思う」
「お姉ちゃんの部屋は?」
「多分、兄貴の部屋を一緒に使うはずだから、下だけど」
「ふーん」
「んじゃ、まずは荷物片付けるんだな」
「言われなくても」
あたしは部屋に入って、荷物を整理し始めた。
とうとう同居生活スタートですか…。
三谷さえいなかったら普通に生活できるんだけどなぁ。とか思いながら、あたしは荷物整理を続けた。