「…とゆーワケだから、今日から一人で帰れな」
「嫌。 終わるまで待ってる」
「……そこまでしてチャリで帰りたいのかよ」
「いいじゃん。どーせあたしだって大会前だし、練習するもん」
「レギュラーでもないのに?」
「まだ1年よ。レギュラーになれるわけないでしょーが」
「へっ。でも俺には可能性があるんだな〜♪」
「たまたま2年生のピッチャーは肩の故障でマネージャー的存在になってて、1年にしかピッチャーがいないから。 でしょ?」
「レギュラーになれる可能性があることにかわりねーじゃん」
「ま、そーだけどね」
「だから、俺今日から自主練の時間増やすつもりなんだ」
「それよりさ、1年生にピッチャーって何人いるの?」
「えーと、3人、だっけな」
「なのに2年生には1人しかいなかったの?」
「……細かいことは気にするな。俺も良く知らん」
「ふーん」
「じゃぁ、お前部活終わったらこっち来いよ。ボケーっとして待ってるのも退屈だろうし、俺の練習してる姿でも拝んどけ」
「なーんであんたなんか見てなきゃいけないのよ!!そんなんだったら堀越(ほりこし:三谷のキャッチャー)見とくもん!!」
「あー はいはい。好きにしろ」
ま、色々ありまして、あれから毎日昼休みには三谷の「高杉ー!!」って声が響いております。
もうそろそろ1ヶ月になるのに、未だに三谷の納得するお弁当が作れないあたし。
いや、あたしは精いっぱいやってる!! 三谷が文句言いまくってるだけよ!!!
で、もうすぐ秋の大会。
3年生の先輩が引退してから、初めての大会がある。
それは、バレー部だけじゃなくて、ほとんどの運動部に言えること。 三谷の所属してる野球部も、そのひとつ。
なんかいろいろあって、レギュラーになれそうだとかなんとか言って、今日から自主練だってさー。
そもそも、三谷って野球上手いの? ピッチャーって言ってたけど、どんな球投げるのかな…
ま、関係ないけどね。
「ねぇねぇねぇねぇ香恋ーっ 聞いた?」
「…何を?」
「あきね、レギュラーなったんだってえっ!!」
「へー、すごいね矢幡は」
「うん♪ あ、そうだ。三谷も、レギュラーなれそうなんだってね」
「え? あぁ、何か言ってたよ。今日から自主練の時間増やすとか」
「1年のキャッチャーの中だったら、三谷はダントツだろうね」
「…え?」
「香恋、知らないの? 三谷の投げる球の威力!!」
「知らない。てか知りたくない」
「野球部の期待の星なんだよ、三谷は」
「へーぇ、そうなんだ」
初めて知ったよ。 三谷そんなにすごかったんかい。
「彼女としては応援しなきゃだめだよね、香恋♪」
「…さっき美菜子の口から【彼女】って言葉が出てきませんでした?」
「ん?言ったよ?」
「もー!!やめてって言ってるでしょ!!何であたしがあの三谷なんかと付き合わなきゃいけないのよ!!」
”ゴッ”
あたしの頭に何か当たった。
「痛っ…」
「大声で人を貶すような事言ってんじゃねーよ」
「三谷…っ」
あたしの頭に当たったのは、三谷の投げたボールだった。
「…てか、野球部が野球のボール使って女子をいじめていいの?!」
「俺は断じていじめてなんかない!! つーかあの弁当のほうがいじめだろぉぉ!!!」
「……美菜子、バレーボール持ってきて」
「お前同じ事しようとしてるじゃねーかぁぁ!!!」
『やっぱ香恋と三谷ってお似合いだよね』
なんて言ってる子もいたけど、今はそれどころじゃない。
「覚悟しろ三谷ぃぃぃぃぃ!!!」
「ホントにバレーボール持ってきたのかよっ!」