「へー。頑張ってるじゃん」

 放課後。

あたしは部活が終わった後、三谷に言われたとおり、グラウンドに来てた。

三谷と堀越が練習してるのをさっきから見てるんだけど、三谷の球、すごく速い。

よくあんな球捕れてるなぁ、堀越(あえて三谷は褒めない)。

「あ、君が高杉香恋ちゃん?」

「へ?」

 フェンスにもたれかかって三谷を見てたあたしに、誰かが話しかけてきた。

てか何で名前を………?

「あぁ、俺は2年の堀越大輝(ほりこし だいき)。野球部元ピッチャー。今はマネの仕事手伝ったりしてるんだけどね」

「堀越…?」

「あぁ、大地(だいち)の兄貴」

 大地って言うのは、三谷のキャッチャーの堀越のこと。

堀越、お兄ちゃんいたんだ。

「康輔と付き合ってるんでしょ?」

「いえ、違います。付き合ってません」

「え?そうなの?てっきり付き合ってるんだと思ってたのに」

「ホント、何もないんです」

「でも登下校いっつも一緒じゃん」

「家が一緒なんです」

「同棲?」

「先輩、殺されたいですか?」

「冗談冗談」

 そう言ってる先輩の笑顔は少し引きつっているように見えた。

 

 

「お疲れ」

 水を飲んでる三谷と堀越のところへ行くと、先輩は言った。

「あ、先輩」

「兄さん練習見てたの?!」

「別に良いだろ、康輔は野球部の期待の星なんだから」

「いや、三谷がどうのこうのというよりは、その三谷のボール捕れてる堀越すごいと思うなー」

「お前帰れ」

 三谷が言うと、先輩は笑ってた。

「ってゆーか練習終わったんなら帰ろーよ」

「まだ終わってないけど」

「……ふーん。じゃぁ自転車の鍵頂戴」

「何先に帰ろうとしてんだよ!!」

「ちゃんと戻ってくるから、練習しときなよ!鍵!!鍵頂戴っ!!!」

「……戻ってこなかったら今後一切チャリ乗せてやらねーからな」

「そこまで疑わなきゃだめ?大丈夫だよ、ちゃんと戻ってくるから。」

 あたしは三谷から鍵を受け取ると、自転車で近くのコンビニへ向かった。

 

 

「お疲れー あれ?先輩は?」

「兄さんなら帰ったよ。何か先発メンバー候補を決めるとかなんとか言って」

「ふーん」

「お前、戻ってきたんだ」

「当たり前でしょ。 コレ買いに行ってただけ」

 あたしはコンビニで買ったパンジュースをさしだした。

「パンとジュース。 お腹空いてるでしょ?」

「あ、サンキュ。 たまには気が利くじゃん」

 ここはあえて言い返さないでおいた。

 そして、パンを食べる三谷と堀越。

「……なぁ高杉」

「ん?」

「大地のパンと俺のパン、明らか俺のパンのほうが小さい気がするんですけど」

「目、大丈夫?おかしくなったんじゃない?」

「………」

 

 次の日。

あたしの靴箱に変な物が入ってた。 ……コレ、何?

「みーたーにー」

「何だよ」

「この手紙、何だと思う?嫌がらせ?挑戦状?それとも脅迫状?」

「何でお前はそういう方向にしか考えられねーんだよ」

「えー? じゃぁそれ以外に何があるの?」

「……告白とか?」

「は?何で。 あたしはあんたと付き合ってるって思われてるのに、何であたしに告白してくる人がいるのよ」

「そんなの知らねーよ。 …でも、その字、どっかで見たことあるんだよな……」

「ま、とりあえず放課後体育館裏ね」

「あ、今日も自主練するから」

「うん」

 この手紙の差出人が誰なのかも知らずに、あたしはいつも通り過ごしてた。

何も、知らないで―――。

  

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