「あ、あら、あ…… ・・・。 あら、あなた。今日は早いんですね」
「お前にあなたなんて言われる筋合いねーんだよぉぉぉ!!!」
「あたしだって好きで言ってるわけねーだろぉぉぉ!!!」
「気持ち悪ぃんだよ!お前にあなたとか言われると!!」
「セリフなんだから我慢してよ!三谷のせいで最初からやり直しじゃん!!」
「最初からって言ったってさっきのが最初のセリフだろーが!!」
「もう言った。頑張って言った。はい、じゃぁ次の三谷のセリフからどーぞっ!」
「アホかボケェ!!お前棒読みだったじゃねーか!!!やり直しに決まってるだろ!」
「でも頑張って言ったもん!ちゃんと練習するもん!!」
「だから嫌だったんだよ!!コイツと夫婦役なんかするの!!」
「あたしだって嫌だもん!好きでやってるんじゃないもん!!でも文化祭だもん!!楽しみにしてたんだもん!!!」
「もんもんうっせーんだよ!!」
「うるさいのは三谷でしょ!!」
「おい。お前らもっと静かに練習できねーのか」
この劇の主人公(ヒーロー)、矢幡の一言で、あたしも三谷も黙り込んでしまった。
……いや、だってすごい怖い。
心の底から謝らないと許してもらえなさそうな顔してるよ矢幡。
ヤバイ。これはものすごくヤバイ。 滅茶苦茶怒ってる。
「でも、よく考えてみたら三谷と香恋にピッタリの役だよね」
この状況でモノを言えるのは美菜子しかいない。
「喧嘩ばっかりだけどホントは仲の良い夫婦、って、そのまんまじゃんっ♪」
美菜子ぉ…ダメだよ、今矢幡怒ってるもん。
笑顔で言っちゃダメだよ。 殺されちゃうよ? いや、美菜子は彼女だけどさ。
いつもなら「夫婦じゃないし!」とか言って反論するけど、やっぱり矢幡は怖かった。オーラが違う。
「こんな仲が良いのか悪いのか分かんない夫婦から何で優しい女の子が生まれるのか不思議よね〜」
いやいや舞香。
すごく他人事のように言わないで。
「でも、やっぱ香恋と三谷ってお似合いだね」
「………」
あ、とりあえず劇のあらすじ紹介しとくね。
あたしと三谷が出るのは最初のほうだけ。 うん、嬉しい。すごく嬉しい。
ある国に、喧嘩ばっかりだけどホントは仲の良い、子どものできない夫婦(役→三谷・高杉)がいました。
その夫婦は、毎日せっせと働き、神様に、子どもを授けてくださいとお願いをしていました。 喧嘩ばっかりのくせにね。まあホントは仲良いって設定だから。
もう子どもは生めないと言われていましたが、キセキが起き、可愛い女の子が生まれました。
二人は神様に感謝し、もっと一生懸命働くようになりました。 ここであたしと三谷は出番修了。イエーイ!!
16年後。
すっかり大きくなった二人の子ども、エリー(役→香宮)は働き口を捜して、都市へ来ていました。
両親には無理をしないでもいいと言われていたけど、エリーは両親の為に、働こうと決心したのです。 何て良い子なんだろうね、エリー。
ある夜。
エリーは川へ洗濯に来ていました。
すると、何かが流れてきます。 よく見てみると、それは人で、エリーは急いで連れて帰って手当をしてあげました。
実は、その人はこの国の王子、フェリックス(役→矢幡)だったのです。
んで、ここから舞踏会があったり、いろいろあって、エリーとフェリックスは結婚しました。めでたしめでたし。
って話。
ま、とりあえずあたしと三谷は喧嘩して働いて喧嘩してお願いして喧嘩して…… をやってたらいいわけ。
「あら、あなた。今日は早いんですね」
「あぁ。今日も頑張ってくるよ」
「行ってらっしゃい。体には気をつけてくださいね」
家に帰っても、練習は続いた。
他のシーンの練習は順調に進んでるらしい。衣装とかの準備も。
だから、あたしと三谷のせいで劇を台無しにするのはダメ。絶対ダメ。
それに、文化祭の日にはお義母さんも退院してて、みんなで見に来るって言ってくれたし、頑張らなきゃ!!
「二人とも棒読みじゃない。全然ダメー」
「もっと笑顔で言わなきゃね」
お義兄さんとお姉ちゃんからのアドバイス。
てかアドバイスなのかな。 お姉ちゃんの発言が文句にしか聞こえないのは気のせい?
「ハァ、何でこんなコトになっちゃったかなー」
「お前、もっと笑顔で言えないのかよ」
「それは三谷も一緒でしょ」
「いや、俺のほうがマシだと思う」
「嘘つけ。 あの顔が笑顔なの?」
「…悪かったな」
「そーだよ、悪いのは三谷。すべて原因は三谷。悪いのは三谷康輔だぁぁー」
「黙れ」
…まぁ、こんな感じで練習に励んでます。