「えー、只今マイクのテスト中、只今マイクのテスト中ー」

「………」

 

 えー、皆さんこんにちは。 高杉 香恋です。

今日は待ちに待った文化祭当日。

あたしたちのクラスは午前中に出し物をするクラス。

午前中って言っても、劇は3回やるんだけどね。 3回も三谷と夫婦役を……

「只今マイクの…」

「マイクなんかいらんわボケェっ!!何やってんのよ!!」

 あたしはマイクのテストをやってた三谷を思いっきり蹴る。

「いってーな、お前何するんだよ!!」

 劇の中では貧しい夫婦だから、今来てる服もみすぼらしい服。

衣装係の人すごく頑張ったと思う。この微妙にボロボロ感が出てるの、すごいもん。

「教室で劇やるのに何でマイクが要るの!!あんたの声はどんだけ小さいのよ!!」

「どーせ俺の声はお前より小さいですよー」

「……そこ開き直る所じゃないし。ってか何処でマイクなんか手に入れたのよ、返してきなさい」

「めんどくせーな。もうすぐ劇始まるってのに」

「そーよ、劇始まるんだから早く……………早く……」

 あたしと三谷は辺りを見回す。

…。

………。

……………。

…………………………………。

 あたしたち舞台に出ちゃってるんですけどぉぉぉ!!!!!

お客さんに見られちゃってるよ。

ヤバイ。カナリの割合でヤバイ。究極的にヤバイ。(あれ。日本語がおかしくなってる気がする)

どうしよう。

舞台裏にいるみんなを覗くと、冷たい視線が返ってきた。

 

 …よし、こうなったら、このまま劇を始めるしかない。

「あら、あなた。今日は早いんですね。マイクなんか持ってどうしたんですか」

 アドリブだ。

完璧アドリブだ。 もうどうすることもできない。

仕方ないよ、三谷。お前が悪いんだ、マイクなんか持ってるから。

「あぁ、家の前に落ちてたんだ。売ったらお金になるかなと思って」

 何で家の前にマイクが落ちてるの!!

しかも何処で売るのよ!マイクってそんなに高く売れるかな?!

「そうですか。じゃぁ、行ってらっしゃい。体には気をつけてくださいね」

 よし、コレで元のセリフに戻った。

「昔、ある国に、喧嘩ばっかりだけど、ホントは仲の良い子どもの出来ない夫婦がいました」

 ありがとう、ナレーターの場越。

これで何とか修羅場を乗り切った気がするよ。(修羅場だったのかどうかは別として)

無人島旅行の時にバスの席を勝手に決めたのは絶対許してやらないけど。 

「この二人は貧しく、生活は苦しいのですが、毎日せっせと働いていました」

 三谷が働いてるシーン。

よし、もうマイクは持ってないな。

 あたしは川で洗濯物をしてるシーン。

 

……あれ? おい場越。次ナレーターだぞ、セリフナレーターだぞ。

お前ナレーターだから台本見てるんだろ、忘れるなよ。おい場越ぃぃ!!!

何処で何やってんだぁぁ!!

 …仕方ないなぁ、もう。

「神様、どうか私たちに子どもを授けてください……」

 あたしはお祈りしているポーズをとった。

そしたら、やっと気付いたのか、場越がセリフを言った。

 

 その後も、危ないところはチョクチョクあったけど、無事終了。

やっと1回目おわったぁぁ

 

「もー、香恋!!」

「ごめんっ!!!」

「ホントどうなるかと思ったじゃん」

「いや、舞台に出ちゃってるのに気付かなくてさ」

「あれじゃぁ奥さん二重人格じゃん」

「喧嘩のときも蹴ったりしないのに」

「あぁぁぁぁごめん!!ホンットごめん!!」

「何か始まり方強引だった気がしたけど、まぁ良いことにしよっか。何とかなったしね」

 笑顔で言う笹倉さんは、やっぱり可愛かった。

 

 

 

 

 現在午後。

劇も無事終了!!

午後からは他のクラスの出し物を見にいく番。

あたしは美菜子とまわる気満々だったのに、美菜子は矢幡と行くんだってさ。

 他の友達も一緒に行けないらしいし…

「あ、舞香!」

「ん〜?」

「一緒にまわろうっ!!」

「えー?何で?香恋には三谷がいるじゃん。何か邪魔しちゃ悪いよー」

「全然邪魔じゃない。ってか三谷とまわるなんて一言もいってない」

「でもどっちにしろあたしも彼氏とまわるから、無理なんだ」

「あぁ、そう…うん、分かった」

「じゃあ、楽しんでね、香恋!」

「うん!」

 三谷とは絶対まわらないけどね。

「香恋」

「あ、お姉ちゃん!!!」

 そうだ、お姉ちゃん達が来てたんだった!!

「よかったよ、劇」

「ホント?!」

「香恋以外」

「………」

 何でこんなにひどいことを言われるのかしら?

「嘘嘘。香恋もよかったよ。 ところで康輔君は?」

「えーと、三谷なら多分まだ教室にいると思うよ」

「お義父さんは仕事があるから劇見たらすぐ帰ったんだけど、優大が色々見ていきたいらしくて」

「あたしも一緒に行って良い???」

 これは神様からのプレゼントだ。

劇を頑張ったあたしにご褒美をくれたんだっ!!!

「もちろん。 あ、人数は多い方がいいわよね。康輔君も一緒に行こうと思うんだけど、呼んできてくれる?」

 前言撤回。………神様、あなたは何てヒドイ御方なんですか。

 

 

 結局、あたしはお姉ちゃんと優大、それから三谷と一緒にまわることになった。

「俺、もう絶対劇なんかやらねぇ」

「あたしだってやらないわよ。例え1000万円貰えるとしても」

「…1000万円貰えるんならやろっかな、俺」

「…勝手にやってれば?」

 楽しみにしてた文化祭も、結局ずーっと三谷の隣にいたのでした。

  

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