あ、三谷だ。

 

 楽しみにしてたはずが、最悪だった文化祭も終わり、いつも通りの生活が戻ってきた。

 今は放課後。

部活が終わって、美菜子たちと屋上に来てる。

みんなは恋ばなで盛り上がってるけど、あたしには関係ないことだから。

そう、断じて関係ない。

あたし恋なんてしてないもん。

 と言うわけで、一人でグラウンドを眺めてたら、三谷が視界に入ってきた。

視界に入ってくるなよ。 って思ってても、三谷のピッチングは他の人よりも上手かった。

だからかな。

余計に見ちゃうんだよね、見たくなんてないのに。

 堀越との息もピッタリだし。あの二人仲良かったんだっけ。

 上手いなー

野球するために生まれてきた人みたいじゃん。 

三谷、黙ってたら格好いいのに。 …何であんな性格なんだろうね。 

 

「香恋、聞いてるの?」

「へ?」

「もーっ」

「ご、ごめん」

 あたしは輪の中に入った。

「で」

「うん」

「ぶっちゃけ香恋って、三谷と何処までいってるの?」

「は?」

「“は?”じゃなくて!」

「……えーっと、皆さん何を言ってらっしゃるんでしょう?」

「だから、三谷と何処までいってるの?」

「…何処にも行かないけど。いや何処にも行きたくないし。出来れば逝って欲しい

「……ねぇ、ホントに付き合ってないの?」

「うん」

「あんなに仲良いのに?!」

「ラブラブじゃん!!」

「劇の時なんて息ピッタリだったじゃん」

「劇の話はしないで。思い出したくない過去だから。ついでに言うと仲良くもないしラブラブでもないからね」

「え〜っ」

 何なんですかみんなそろって溜め息なんかついちゃって。

「ホントに付き合ってないみたいだよ」

 美菜子が言ってくれた。

「付き合っちゃえば良いのにね」

 ……一言余計だけど。

「だから、あたしホントに三谷と何もないんだってば。変な妄想しないでよね」

「なーんだ、おもしろくないなー」

 それから、みんなは他の話をし始めたから、あたしはもう一度野球部を見た。

 

 

「試合、いつ?」

「もーすぐ」

「………」

 あの後、野球部の練習が終わった頃あたしはみんなと別れて三谷と堀越の所へ行った。

まだ自主練するらしいから、見せてもらおうと思って。

 そして、練習が終わった帰り道。

あたしが「お腹空いたー」って言ったら、コンビニ寄ってくか、って事になって、現在に至る。

 あたしと三谷はコンビニの近くの公園のブランコに座ってパンを食べている。

ちなみにあたしはクリームパン。

「もーすぐなのはあたしだって知ってるんですけど」

「来週の土曜日から」

「へぇ。1回戦は何処とやるの?強い?勝てそう?三谷先発?」

「…お前一気に聞きすぎだから」

「だって野球部の事なんて知らないし、三谷も堀越も頑張ってるんだから勝って欲しいし…」

「強いよ、相手は。3年生が抜けて、どんなチームになったかは知らねーけどな」

「ふーん。勝てると良いね」

「勝つ」

「え?」

「絶対勝つ」

 真剣な顔して言ってる三谷は、すごく格好良かった。

何が、って、全部が。

顔は勿論そうだけど、雰囲気も、全部。

三谷って、こんな人だっけ。こんなにキラキラしてたっけ。こんなに……

「見に来るか」

「え?」

「優大連れて、見に来いよ。 見せてやる。俺の最高の球」

 

 こんなに、格好良かったっけ―――――

 

「とか言って、最低の球投げないでよね」

「投げねーよそんな球。俺は本番には強いタイプだからな。 …嘘じゃねーぞ」

「はいはい」

「信じてねーだろ」

「はいはい」

「…バカにしてんのか」

「はいはい」

「いい加減にしろっ!!!」

 練習で投げてる球より、もっとすごいのを投げるのかな。

本番には強いって、そういうことだよね?…ちょっと、楽しみかも。

「分かった。じゃぁ優大と一緒に見にいく。それで、三谷の最低の球見て笑ってあげるから、安心しなよ

「殺されてーのかテメーは」

 

 楽しみにしとくからね、最高の球。

  

inserted by FC2 system