「香恋――っ!!」
「はいっ?!」
次の日。
三谷が朝練で早く出るって言うから早めに起きたのに、三谷はもう家を出てた。…後で絶対しばく。
だから、仕方なくあたしは歩いて学校に来た。
歩いて学校来るの、久しぶりだなーとか思いながら来て、
教室に入った途端舞香に抱きつかれ、周りには人だかりが。
………何故?
「香恋、昨日三谷と一緒にいたんだって?!」
「…いや、家一緒だから。そりゃ嫌でも一緒にいることになるけど」
「家一緒?!」
…あ。 余計な事を言っちゃった気がする。
「同棲?!」
ほーら。堀越先輩と同じこと言う。
「違う違う。そんなことないって。何で三谷なんかと同棲しなきゃなんないのよ。おかしいでしょーが」
「だって家一緒って言ったじゃん」
「…えーっとですねぇ」
話すと長くなるけど……ま、いっか。変な誤解されるより。
「あたし、親いないでしょ?で、お姉ちゃんが三谷のお兄ちゃんと結婚したの。だから、あたしもついでに一緒に住んじゃえ、みたいな」
「ふーん」
分かってますか皆様。
納得してないような顔しないでくださいますか皆様。
「でも、昨日ブランコに座ってパン食べながら喋ってて、良い感じだったーって聞いたよ」
「…誰から」
「え?」
「誰から聞いたの。今すぐ絞めに行くから早く教えて」
「香恋、そんなこと言わないで。香恋が言ったら本気で殺しに行きそうだから」
「………」
「上手いなー」
「ホントにね」
「…あ、先輩」
「久しぶり、香恋ちゃん」
放課後、いつもみたいに三谷と堀越の自主練を見てたら、堀越先輩が来てた。
堀越のお兄さんなんだけど、雰囲気は全然違う。
堀越は落ち着いてるんだけど、先輩は…なんて言うかなぁ。とりあえず、違う。
「先輩は、三谷の最高の球って、見たことあります?」
「康介の最高の球?」
「はい。三谷、自分で言ってたんです。試合の時に投げる球は練習の時よりすごいって」
「香恋ちゃん忘れてるのかもしれないけど、今度の試合が康介の高校で初めての試合なんだよ?」
「……へ? そう……だったような………」
先輩はカナリ笑ってた。
「香恋ちゃんやっぱおもしろいなー、何て言うか可愛いね、反応が」
「かっ、可愛い?!へ、へっ変なこと言わないでください!!」
「ほら、ソレ」
とか言いながら、また笑ってる。
「もーっ!!」
「でも、康輔なら投げそうだよね」
「…え?」
「その、最高の球、ってやつ?」
「………」
あたしは、練習してる三谷を見た。
「最高の球……」
投げて、くれるのかな。
「見にいくの?」
「え?」
「試合。香恋ちゃんは見にいく?」
「あぁ、はい。三谷の最低の球見て笑いに」
”ゴッ”
鈍い音がして、あたしの頭に痛みが走った。
「いっ…たぁっ」
「最低の球なんか投げねえっつってるだろ」
「痛い。最低。バーカ。地獄耳。死んじゃえ。逝っちゃえ」
「お前なぁ〜」
「それはそうと」
「?」
「今日の朝なんで先に行ったのよ」
「…いや、朝練するからって昨日言ったじゃん」
「あたし一緒に行くって言ったじゃん」
「…いや、そんなの聞いてねーから」
「…いや、聞けよバカやろー」
「…いや、聞いてねーもんは聞いてねーんだから仕方ねーだろ」
「…いや、仕方なくないから。全然仕方なくないから」
「…いや、だって仕方ないとしか言えねーだろ」
「…いや、 ………。 もーいい!!三谷のバカ!!いっぺん死んでこい!!」
「急になんだよっ」
あたしはポカポカと三谷の頭をたたく。
そんなあたしと三谷を見て、堀越先輩は笑ってた。