「康輔の最高の球?」
「堀越は、中学の時から見たにとバッテリーだったんでしょ?」
「うん、中学の時から、康輔の球受けてたよ」
「試合の時の球と、練習の時の球って、違う?」
「もちろん」
堀越は笑顔で言った。
「康輔の最高の球を知ってるのは、僕だけ。何か嬉しいんだ、康輔のキャッチャーでいられるの」
「へぇー」
「見に来るんでしょ?高杉さん」
「うん」
「楽しみにしてなよ。三谷の最高の球、見せてあげる」
「うんっ」
堀越が笑顔で言うから、あたしは自然と笑顔になった。
「行ってらっしゃーい」
お義母さんの声で目が覚めた。
今日は三谷の試合の日。
「香恋ー早く起きないとご飯ないよー」
「はーい!!」
あたしは着替えて下におりた。
「ホントに優大連れて行くの?」
「うん。三谷が連れて来いって」
「じゃぁちゃんと面倒みてよね。優大になんかあったらいくら妹だっていっても許さないから」
「うん、大丈夫……」
お姉ちゃんの顔はすごく怖かった。
「みんな応援に行けないから、香恋ちゃん、みんなの分も応援してきてね」
「あ、はい」
「試合、何時からやるの?」
「1時からって言ってました」
「そっか。じゃぁ時間があったら見にいこうかな。康輔の試合、最近みてなかったし」
「お義兄さん、三谷の中学のときの試合、みたことあるんですか?」
「うん、あるよ。そんなにたくさんは見てないけどね」
「三谷の球って、どんなのですか?」
「え?どんなの…って言ってもなぁ…。 とりあえず、康輔はめったに打たれなかったよ。すごい球ってことなのかな」
「へー…」
三谷、すごいんだ。
「とにかく、優大の面倒ちゃんとみてよね。分かった?」
「大丈夫だってば」
優大のほうを見ると、優大は気持ちよさそうに寝ていた。
「優大、そろそろいこっか」
お義父さんは出張、お義母さんは買い物、お義兄さんもお姉ちゃんも仕事で、今家にはあたしと優大しかいない。
あたしは優大を抱いて、家を出た。
三谷の試合まで、あと1時間。
三谷、今何やってるんだろう。直前まで、練習ってするのかな。
『今家出た。試合頑張れ』
絵文字も何も使わずに、あたしは三谷にメールを送った。
返事が来るのかどうかは分かんないけど(ていうかメールみれるのかな…)、なんとなく応援したかった。
「優大、いつの間にこんなに重くなっちゃったの?」
優大に理解できたのかどうかは分かんないけど、優大はちょっと顔を歪めた。
「ゴメンゴメン。大きくなることは良いことだよね」
あたしは優大のほっぺたをつまんだ。
柔らかいなぁ。 赤ちゃんってほんと可愛い。もっと大きくなったら、優大はどうなるんだろう。
「よし、三谷の応援頑張ろっか」
『おう』
三谷から短い返事が返ってきていたことに気づいたのは、しばらく後のことだった。