「三谷の嘘つき――――!!!」

 あたしはとにかく叫んでた。

マウンドに立った三谷に声が届くかなんて分からない。

あたしの声は、多分周りの応援の声にかき消されてると思うけど……

何も言わずにいられなかった。

 あんなの、三谷じゃない。

あんな球しか投げられない三谷じゃない。

三谷は、野球部の期待の星とまで言われてるんだから、こんなもんじゃないはず。

 とにかく、言いたいことは今言わなきゃ。

「最高の球投げるって言ったじゃん!!何緊張してるのよ!嘘つき!!打たれるなバカヤローっ 三谷なんか死んじゃえ――!逝っちゃえ――!!消えちゃえ――!!!」

 (最後のほうは野球と全く関係ないけど:)あたしが言い終わった後、三谷と目があった気がした。

 

三谷は、微かに笑った。

そのあとの表情は、さっきまでの緊張してたのとは、全然違ってた。

あの時みたいに、キラキラしてて、格好いい。

あの時、みたいに ――――。

 

 

 

三谷が投げた。

違う。球が全然違う。練習の時よりも、速いかもしれない。

 一人、三振をとると堀越がタイムをとった。

「優大。おじちゃん良い感じだったよ。見た?」

 優大は嬉しそうな顔をして、手をジタバタさせていた。

 

 その後の三谷は絶好調だった(打席にたった三谷はダメダメだったけどね)。

もちろん、試合にも勝った。

 おめでとう、三谷。 それと、最高の球…すごかったよ。

 

 現地解散らしいから、一緒に帰ろうと思ったら、三谷は優大と遊び始めた。

もちろん、野球ボールで。

「あの子が優大君?」

「堀越知ってるの?」

「康輔から話よく聞くんだ。自分の子でもないのにホント康輔は優大君が好きなんだね」

「ほーんと。ホントの親よりもかわいがってるかも。…ま、これは言い過ぎかもしれないけど」

 あたしと堀越が話をしてる間に、三谷のまわりには人だかりが。っていっても全員野球部だけど。

堀越と一緒に行ってみたら………

「康輔、その子お前の子供か?!すっげー可愛いじゃねーかっ!」

 …いやいや、そんなわけ無いだろ。

第一三谷はまだ18になってないんだから戸籍上父親にもなれないし。

「ってことは生んだのは高杉か!!」

 …いやいや、そんなわけ無いだろ。

第一あたしと三谷はそんな仲じゃ……… って、

「ふざけんなっ!!何であたしが三谷なんかの子供生まなきゃなんないのよ!!!バッカじゃないの?!」

「あ。高杉」

 三谷が言うと、優大は笑顔になってあたしの所へやって来た。

「すげー懐いてるじゃん」

「ほっとけ」

 …なんて奴等だ野球部は。

「もーその話はいいから次の試合に向けて練習でもやっとけーっ!!!」

 

 

「何なのよ!」

「いや、俺に怒るなって」

「三谷は最初最低な球投げるし、終わったらあんな事言われるし。 三谷、緊張してたの?」

「…まぁ」

「バッカじゃないの。ピッチャーが緊張してどーすんのよ。ピッチャーが投げなきゃ野球は始まんないんでしょ」

「…そーだけど」

「ほんっと三谷はダメだなー」

「でも途中からはよかったろ!」

「と ちゅ う か ら は、ね」

 あたしはわざと切って言った。

「ねー、優大♪」

 三谷は何か言いたそうだったけど、何も言わなかった。

 

「たっ…高杉」

 家の前に来ると、三谷が言った。

「ん?」

「えっと……そのぉ…なんつーか……」

「何よー じれったいなぁ。何?何か言うの?」

「あ……ありがとう、な」

「えっ…」

 あたしも三谷も、少し顔を赤らめて、固まってしまった。

今までのあたし達だったら、こんなコト、なかったのに。 何だろう。変な感じ。

 優大が退屈したのか、手足をジタバタさせはじめたから、あたしと三谷は動き出した。

 

 その後も、あたしと三谷は変なままだったのか?

「三谷でてこーい―――!!」

「朝からうるせーんだよ!!つーか俺はさっきからここ居たからな!」

「あたしのパン食べたでしょ!!もうパンが一切れも残ってないんだけど!!」

「………」

 そんなワケないでしょ。

「黙りこくるな。いいから今すぐ吐け

「は?!」

  

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