「………何で、三谷が…」

 

 

 何で、三谷と綾奈が一緒に居るの?

 何で、あたし、こんなにもやもやしてるの?

 何で、あたし、こんなに苦しいの?悲しいの?

 何で―――――――――――――…

 

 

「…そのキーホルダー、三谷の自転車の鍵についてたんだろ」

 八幡はあたしが握っているキーホルダーを見ながら言った。

「何処で拾ったんだ、それ」

「えっ…と、学校の近くの交差点…」

「ぶつかったんじゃないのか、あの二人」

「そうかもね。綾奈ギプスしてるし」

 美菜子が窓から三谷と綾奈を見ながら言った。

「………じゃぁ、三谷が綾奈に怪我させちゃったってこと?」

「うん、まぁそんなトコじゃないのか」

「綾奈陸上部なのにね。足怪我して大丈夫なのかな」

「………」

 それだ。

綾奈が陸上部だから、三谷は…

陸上部の綾奈が足を怪我するのは、三谷が肩を壊すのと同じってことだよね。

だから、か。

 三谷と綾奈が一緒にいた理由は分かった。(後で三谷に聞いたらその通りだった)

だけど、いくら考えてみても何であたしの胸が痛んだのかは分からなかった。

 

 

 日に日に、あたしの胸の痛みは増していった。理由も、分からないまま。

「もう、三谷と一緒に登校しないの?」

「…三谷見てたら何か苦しいから、嫌」

「何ソレ」

「…ゴメンね。美菜子、八幡と登校してたんでしょ?」

「いいよ。あき、朝練するって言ってたし、しばらくは一緒に登校してあげる」

「ありがとう」

 あれから、あたしは自然に美菜子と登校するようになった。

三谷は毎日、行きも帰りも綾奈を送るから………

あと、学校でも家でも、三谷と一切喋らなくなった。

そしたら、何故か周りの友達から心配された。『香恋らしくない』とも言われたし。

 

…あたしって、三谷がいないと成り立たないのかな。

三谷の隣に居られなくなってから、あたし、何か変。……自分でも思う。

どうしちゃったんだろう……

 

 

 

「…あ」

 学校の前で、三谷と綾奈に鉢合わせしてしまった。

今、一番三谷と会いたくなかったのに。

「高杉!!」

 あたしは、三谷が呼んでるのも無視して、教室まで走った。

三谷と喋りたくない。三谷に名前なんか呼ばれたくない。三谷の顔なんか見たくない!!!!

「高杉……」

「香恋ちゃん、最近元気ないよね。…やっぱり、あたしの所為?」

「ううん。綾奈の所為なんかじゃないよ。三谷の所為」

「…キツイこと言うなぁ、香宮」

「ホントのこと言っただけだよ」

「………」

「あたしね、香恋を元気にしてあげられるのは、三谷しかいないと思うの。だけど、今はダメ。香恋、自分の気持ち、ちゃんと理解できてないから」

「…は?」

「もう少しだけ、待っててあげて」

「…お、おぅ」

 

 

「香恋。無視はダメだよ」

「…三谷なんかと喋りたくないもん」

「うん。あたし、香恋の気持ちは分かってるつもりだよ」

「………」

「だから言わせて」

 あたしは美菜子の目を見て、黙って頷いた。

「自分の気持ちは大切だよ。だけど、三谷の気持ちも、考えてあげて?元気ないのは、三谷も同じだと思わない?」

「思わない」

「………あぁ、そう…」

「三谷はずるい。あたしばっかり、こんな苦しくて、悲しくて……」

「香恋…」

「あたし、三谷の隣に居るのって当たり前だと思ってたの。…でも、三谷は違ったみたい。三谷、あたしと居なくても普通だもん。綾奈と居ても、あたしと居る時みたいに普通に喋ってるし、笑ってる」

 三谷にとってみれば、あたしなんて………………………

「バカみたい、あたし。三谷の隣に居るのが当たり前なんて思ってたのはあたしだけだったんだよね」

 バカ。 バカ三谷。 大っ嫌い。

何で、あたしだけこんなに悩まないといけないの?

今、三谷は、こんな気持ちじゃないんでしょ?

三谷の顔見るのが辛い。三谷の声聞くのも辛い。三谷の隣にあたし以外の人がいるのを見てると、すごく、苦しいよ――――…

  

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