「高杉」

 今日は、あたし達バレー部も朝練があるから、家を早く出ようとしたら、三谷に呼び止められた。

勿論、無視して出て行くけど。

「高杉。話ぐらい聞けよ」

「…何」

 あたしは仕方なくふり返って、返事をした。三谷を思いっきり睨みながら。

「…谷本(たにもと:綾奈の名字)、もうすぐ治るから。それまで、送り迎えするだけだから、えっと…」

「だから?」

「今はまだ、お前乗せてってやれない」

「…だから何なのよ!!」

「?!」

「そんなの分かってるよ?わざわざそんなこと言うためにあたし止めたの?」

「高杉…」

「…いいよ、別に。あたしと一緒に居るの嫌なんでしょ!!綾奈と居る方がいいんでしょ!!!」

「は?俺そんなこと一言も「言ってるようなもんじゃない!!!!」

 あたしは自分でもびっくりするぐらい大声を出していた。

「あたし別に三谷の彼女でもなんでもないし、わざわざそんなこと言わなくてもいいじゃん。あたしなんかほっとけばいいじゃん!!」

「高杉、俺…っ」

「あの日だって」

「え?」

「三谷が綾奈とぶつかった日だって、あたしには何にも言わないで先に行ったじゃん」

「そんなこと今は関係ねーだろ」

 三谷の一言で、あたしの怒りは頂点に達した。(…気がした)

「関係なくなんかない!!!三谷のバカ!三谷なんか死んじゃえっ!!」

「お前なぁっ」

「綾奈が治っても、あたし、もう自転車乗らない」

「…お前、本気で言ってんのか?あそこまでして俺に乗せろって言ったくせに」

「もういいって言ってるの!!」

「…高杉、」

「早く綾奈迎えに行ってあげなよ。綾奈、待ってるでしょ?」

「…おい、人の話は最後まで聞け」

「三谷の話なんか聞きたくない」

「高杉っ!!」

「これ以上あたしのこと苦しめないでよ!!三谷は…っ、三谷は綾奈と仲良くしてればいいでしょ!!!!!」

 あたしはそのまま自分の部屋に入って鍵を閉めた。

なぜか、学校には行きたくなかった。

今は一人になりたかった。

 

 

「三谷君?」

「え?」

「どうしたの?」

「…いや、別に、何でもない」

「香恋ちゃんのこと考えてた?」

「…!?」

「喧嘩した?」

「…別に…」

「もう、大丈夫だよ、あたし」

「え?」

「三谷君に送ってもらわなくても、あたしもう大丈夫だよ」

「でも、谷本…」

「だって、今の香恋ちゃん、見てられないもん。あんなに元気ない香恋ちゃんなんて、初めて見た」

「………」

「この前言ってたよね、香恋ちゃんのこと元気にしてあげられるのは三谷君だけだ、って、美菜子ちゃんが」

「…あぁ」

「あたしもその通りだと思うの。だから、三谷君。香恋ちゃんと、仲直りして?」

「仲直り…。あいつ、俺の話聞こうとしないからなぁ…」

「大丈夫だよ。香恋ちゃんと三谷君だもん」

「…」

 

 

 

 

 どうして、涙が止まらないんだろう。

ホントに、あたしどうかちゃったのかな。おかしくなっちゃった。

朝の喧嘩は、今までのと違ってた。

今までなら、ちょっと言い合いしたって、気にせず喋れてたけど、今は一言も喋りたくない。

喧嘩しても、全然気になんてしなかったのに。

三谷の所為で。

三谷と一緒に居なくなってから、おかしくなっちゃったじゃん。

バカ。

三谷のバカヤロォ。

もう、何が何だか分かんなくなってきた。

あたし、何がしたいんだろう。

何で泣いてるんだろう。

何で―――――…

  

inserted by FC2 system