「ない、ない、ない、ない、な――――――――――――い!!

 何で?!どこやったっけあたし。

「ないーっ」

 どっこにもない。どうしよう。大事なのに。

あれがなかったらあたし駄目なのに。どこいったの?!

…………まさか。

「何だよ朝からうるせーな」

 コイツか。

コイツが盗ったのか!!

「お前、俺を疑ってるだろ」

「だって、これだけ探してもないんだもん」

「俺が盗るわけないだろ。…で?何探してるんだよ」

「鍵」

「ハァ??」

「自転車の鍵!アレがなかったらあたし自転車で行けないじゃん!」

 せっかく家が近くなったんだから、自転車で通学するようにすればおそくまで寝てられるかなぁって…。

「バカだろお前」

「うるさいっ!」

「朝飯は?」

「まだ」

「やっぱバカだろ」

「…」

 言い返せないじゃん。

「どうするんだよ」

「どうするって…」

 自転車で行かないと、完璧遅刻。

だって、これからご飯も食べるし、顔も洗って、服も着替えて…。あぁぁっ!もう、鍵どこいったのー?!

「ま、俺はもう行くから」

「はっ…薄情者!!か弱い乙女が困ってるんだよ?!助けてあげるのが普通でしょ!!」

「だーれがか弱い乙女だ!か弱い乙女がそんな大声出すわけないだろ」

「おーねーがーいーしーまーすー」

「心がこもってないな」

「お願いします。自転車の後ろに乗せてください三谷様」

「棒読みじゃねーかぁ!!」

「お願いっ!!」

「………ったく、しょうがねーなぁ。今日だけだぞ?」

 

「あのさぁ、俺は重たい重たいお前を乗せてやってるんだぞ?お礼も言えないのかお前は」

「わふぃふぁとふー!」

 あたしは急いでお義母さんに食パンを焼いてもらって、三谷の後ろに乗せてもらいながら食べてる。

いつもなら重たい重たいとか言われたら反論するけど、今は口の中にパンがいっぱいあって、お礼を言うしかできない。

というよりも、はっきりと「ありがとう」なんて言えないから、今言ってるわけだけど。

「何言ってるんだよ」

 少し笑いながら言った三谷。

「あ。あのさぁ、ちょっと残念な話があるんだけど」

「ふぇ?」

「お前舐めてんのか?」

「ふぉんふぁこふぉなふぃ」

 今頑張って食べてるんです。

できれば話しかけないで欲しい。もうすぐ食べ終わるから!!

「…で、話戻すけど」

 三谷がしばらく間を置いたから、あたしはパンを完食。

「あのチャリじゃ、チャリ通無理だろ」

「え?!」

「あの色は校則違反」

「え…え?!ホントに?本気で言ってるの?!」

「そうだけど?」

「うそだぁぁっ!!」

 何で、何で何で…

最悪。せっかくゆっくり寝れると思ってたのに。

「だから、明日からもっと早く起きろな」

「じゃぁ、明日からもよろしく」

「は?」

「明日からも乗せてもらうことにする」

「勝手に決めるな。絶対嫌だから。俺今日だけって言ったはずだから」

「何よー。いいじゃん別にー」

「よくねーからな」

「何でよ?別に、あたし部活終わっても、野球部が終わるまで待つから大丈夫だよ?」

「帰りも乗って帰る気かお前ー!」

 そんなこんなで、明日からあたしは三谷の後ろに乗せてもらうことになった。

だって、楽したいじゃん?

まぁ、周りから何と言われようと…。いや、ちょっと待て。周りから…まぁ、気にしないことにしよう!

  

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