「香恋、三谷と付き合ってるの?」
「え?」
「だって、この前もそうだし、今日も自転車乗せてもらってたじゃん」
「ないないないない。あたしが三谷と付き合うわけないじゃん!」
「なんで〜?」
「変な勘違いしないでよぉ〜」
「ふーん」
その後は、友達たちからこの話を持ちかけられることはなかった。
「あ、三谷の女」
「へ?」
部活中、先生に呼ばれて友達の美菜子と一緒に職員室の前にいたら、急に言われた。
「三谷の女…?」
「香恋、三谷と付き合ってるんだ〜」
「…違うから」
「あー三谷の彼女じゃん」
また別の人に言われた。
…自転車に乗せてもらってただけで、こんなにも言われるもんなんですか…?
横で美菜子はクスクス笑うし。
あたし、好きな人いるんだけどなぁ…。
「はぁ…」
「なんだよ。待つって言ったのお前だろ?」
「…そうだけど?」
「じゃぁ溜め息なんかついてるんじゃねーよ」
「別に、待つのが嫌とかじゃないの」
「へぇ〜」
三谷はあたしが乗ったのを確認して、学校を出た。
「あのさぁ、理由を聞こうとか思わない?」
「思わない」
くそーっ!ムカツク!何よその態度。
「どーせ『三谷の彼女』とかなんとか言われたんだろ?」
なんだ、分かってるじゃん。
「俺は別に勘違いされて困る理由なんかねーよ?好きな人も、彼女もいねーし。…ま、高杉とってのは気にくわねーけど」
「うるさい」
「で?お前は困るって事だろ?好きな人でも居るのか?」
「なんで三谷なんかに言わなきゃダメなのよ」
「理由聞けって言ったのお前だろ?!」
「…そーよ、あたし、好きな人居るの。まぁ、友達の彼氏だから、もう諦めてるんだけどね」
「そんなんじゃ、次の恋もできねーんじゃねーの?」
「え?」
「ずーっと叶いもしない恋なんかしててさ、辛くないのかよ、お前」
「…辛くないわけ、ないじゃん」
あたしがしゅんとしてるのに、三谷が言った言葉は意外だった。
「じゃ、当たって砕けちまえば?」
「え……」
「その方が絶対いいと思う」
「三谷…?」
「ま、頑張れよ」
その後は、いつもと同じ三谷だった。
…告白…と言うより、気持ちだけ、伝えてみようかな…。
ちょっと、三谷に勇気づけられた気がした。