………えーっと、忘れるって何だっけ。

ふぉ…フォ…フォーレスト?フォーリスト?…違う違う違う。

フォから始まるはず。………だった気がする。

えーっと…………

よし、こんな時は辞書を引け!!

 と、言うわけで、和英辞書何処だっけなーっ

…。

………。

………………。

あれ?

何故?何故ない?

何故国語辞典しかない―――?!

「そういえば…」

 数日前…

 

 

  「高杉、英語の辞書貸してくれねーか」

  「…何で」

  「…いや、別にそこまで不機嫌そうな顔しなくて良いだろ」

  「……うん、まぁ、別に良いよ」

  「マジで?!すげーっ!!お前にも人に物を貸すっていう優しさがあったんだなっ」

  「そんなこと言うんなら貸さないけど」

  「嘘ですごめんなさい冗談ですごめんなさいほんとに貸してくださいお願いします」

  「うん、まぁ、別に良いよ」

  「サンキュー!じゃぁちょっと借りるなっ」

  「うん」

 

 

ってなことがあった気がする。

つまり、今和英辞書は三谷が持っている(使ったら返せよあの野郎)。

返して貰わなきゃ。

 あたしは部屋を出た。

…ちょっと待って。

あたしは三谷の部屋のドアノブに手を掛けかけて一時停止した。

今日って三谷部活休みだっけ?野球部って休日も大抵練習してるもんなぁ…

あたしは午前中だけ練習だったけど、三谷は……

ま、部屋ぐらい入ったって怒らないでしょ。辞書返して貰うだけだし。

とりあえず、三谷が居ることを想定して部屋に突入せねば…!!

 

「三谷ー英語の辞書あんた借りっぱなしでしょー?返して欲し………」

 ………誰だその子は。

三谷の横には、可愛い女の子が居た。…あたしの知らない、女の子。

「た、高杉、入るならノックぐらいしろよ」

「…あぁ、なんか邪魔しちゃった感じ?」

「いや、別にそんなこと言ってねーけど」

「ふーん、そっかそっか。三谷には彼女がいたんだねぇ、ごめんごめん。あたし三谷なんかを好きになる人がいるとは思ってなかったからさ。ハハッ」

 あたしはズカズカと部屋に入って和英辞書をとった。

「じゃ、お邪魔しました〜」

 三谷の横を通ったときに、足を思いっきり踏ん付けた。

「い゙っ……ふざけんなよお前!!」

「ふざけてんのは三谷のほうでしょ!!」

「は?!」

「バカ三谷っ!!!」

 あたしはなぜかむかむかしたから、ドアをすごい勢いで閉めると、自分の部屋に入った。

 

 

 三谷、彼女いたんだ。

…へぇ、いたんだ。

結局、あたしは自惚れてただけなのかな。

…いや別に三谷が好きとかそういうんじゃないけどさ。

三谷の隣に居られるのって、あたしだけだと思ってたから、何か……。

三谷に彼女が出来るなんて、思ってもみなかった。………だって、三谷の隣にはあたしがいつも居るから。

…ううん、それもあたしの独りよがりだね、きっと。

三谷にとったらあたしなんか、何でもないんだ…。

何だろうね、この気持ち。

あたしが焼き餅焼いてるみたいじゃん。

あたし………

あ゙ぁぁぁぁぁっ!!もうっ!!わけ分かんないっ!!あたしの頭の中がおかしくなって来たぁぁっ!!!!

………だからとりあえず、

「死ね三谷ぃぃぃいっ!!!」

“ゴンッ”

「いでっ」

 鈍い音と一緒に、あたしの頭に痛みが走った。

「大声で死ねとか言うなバカ」

「何よっ!ってゆーか何で三谷があたしの部屋に居るのよ!出てけっ!!」

「好きで入ったんじゃねーし」

「じゃぁ出てけよ。早く出てけよ」

 三谷はあたしを呆れたような目で見ると、口を開いた。

「…なんか、お前勘違いしてそうだから」

「え?」

「沢口のことだよ」

「沢口?…誰それ」

「沢口 美園(さわぐち みその)。さっき俺の部屋にいた奴」

「あぁ、三谷の彼女?」

「…あいつ、俺のじゃなくて、大地の彼女だよ」

「へ?堀越?」

「そう。今大地と沢口が喧嘩してて、相談にのってただけ」

「…ふ、ふーん」

 あたし、勝手に勘違いして勝手にイライラしてた。

…だけど、その事は絶対に三谷に悟られちゃダメだ。あたしの命に賭けても、その事は秘密にしないと。

「…で?」

「は?」

「それだけ?」

「…いや、お前何か勘違いして怒ってなかったか?」

「全然?」

「………」

「何ー三谷ー。あたしが焼き餅焼いてるとでも思ったー?」

「べ、別に思ってねーし」

「へぇ〜、じゃぁ何でわざわざ言いに来たの?あたしに誤解されてるのが嫌だった?」

「別に」

 顔を少し赤らめて三谷はそっぽ向いた。

「素直になれよ」

「お前もな」

「………」

「………」

「表出ろ」

「は?!ちょっと待て、意味分かんねーよ、マジで待てって!!落ち着け!とりあえず話し合おう。話し合いって大切だと思うな俺!!なぁ、高杉!!高杉―――っ!!!!」

 

 

 

 

 

「で、どうだった?」

 大地が、三谷家から出てきた美園に言った。

「タイミング良く、あたしが三谷君の部屋に居るところに香恋ちゃん…だっけ?」

「うん」

「がね、入ってきたの」

「うん、それで、どうだった?」

「辞書を取りに来てたんだけど、怒って部屋を出て行って…」

「出て行って?」

「………出て行って…」

「その後は?」

「喧嘩してたの」

「…そっか」

 大地は肩を落とした。

「高杉さん、焼き餅焼いてる様子とかじゃなかったの?」

「なんとなくそんな感じだったんだけど…」

「結局いつも通り喧嘩、かぁ…」

「結局、三谷君と、香恋ちゃんって、どういう仲なんだろうね」

「さぁ…。僕にもよく分からないなぁ、あの二人は」

「あたし、二人は両思いだと思うの」

「でも、どっちも素直にならないからなぁ……」

「あたし、今日初めて香恋ちゃん見たけど、お似合いだと思うよ?」

「僕も。あの二人ってお似合いだと思う。充分すぎるくらい仲良いしね」

「だけど…」

 

「三谷―――!!!」

「うっせーな。何だよ大声出して!!」

「うっせーなじゃないっ!!英語の辞書破れてるじゃん!!!どーしてくれんのよっ!!!!」

「俺知らねーぞそんなもん!!自分で破ったんじゃねーのかよ!!」

「なんでわざわざ自分で自分の辞書破らなきゃなんないのよ!!」

「でも俺は事実を述べただけです!!俺は断じて破ってなんかいませんっ!!」

「そうやって言い張るところが余計怪しいの!!」

「じゃぁなんて言えば良いんだよ!!そうです俺が破りましたとは言えねーだろーが!!」

「あんたが破ったんでしょーが!!!」

「俺は破ってねーっつってんだろ!!!」

「あぁぁぁっもう!!とにかく、『忘れる』って英語で何ていうのか知りたいの!!!」

「俺に言うなバカ!!!」

「そんなこと言って、三谷だって分かんないんでしょ!!」

「そ、そんなわけねーだろ!」

「じゃぁ言ってみなよ。『忘れる』って英語で何?」

「…じ、辞書で調べろ!辞書で!!」

「だから、それが載ってるページが破れてんの―――っ!!!!」

 

「まだこんな調子だもんね」

「今度はWデートにでも誘ってみる?」

「それも良いかもしれないね。…だけど、いつだったら空いてるかな…」

「あたしはいつでもいいよ」

「次の試合に勝てたら、そのお祝い、ってことで」

「そうだね」

 笑いながら言うと、美園は大地の手を握った。

「じゃぁ、今日はこのまま遊びに行こう。久しぶりに、大地が部活休みなんだもん。二人でいたい」

「了解」

 大地も、美園の手をそっと握り返す。

こんな、仲睦まじいカップルも居れば………

 

「三谷―――!!!!」

「今度は何だよっ!!!!」

「呼んでみただけ」

「しばくぞこの野郎」

 なかなか素直になれない二人もいたりします。

 

戻る あとがき

 

あ。

忘れるってforgetじゃん。

…あぁ、なんでこんなコトのためにあたしあんなに苦労したんだろう……… inserted by FC2 system