「明日から朝練するから、家早く出る」

「…だから?」

「俺、先に行くから」

「無理」

「無理とか無理」

「…」

「…」

「分かった。じゃぁあたしが早く起き「じゃ、おやすみ」

「話聞け――――っ!!!!」

 

 

 あのあと、三谷達野球部は決勝まで勝ち進んだ。

三谷の球は、試合を重ねるにつれて威力をましていった。by堀越

残念ながら、その後の試合はバレー部の試合と日が重なって見に行けなかったけど、

終わったら三谷からメールがいっつも来てた。

「勝ったぞー」とか、「無失点だった」とか。まぁ、いろいろ。

だけど、決勝戦だけはメールの内容が違ってた。

あたしは、三谷からのメールを楽しみにしてたんだけど、メールはなかなか来なかった。

待って待って待って、やーっと三谷から来たメールは、

 

「負けた」 

 

だった―――――

 

 

「堀越、負けたって、どういうこと?」

 あたしは理解できなくて、堀越に電話した。

三谷に直接聞くのは、無理だった。

「僕の……僕の所為なんだ。僕が……」

「ちょっ…と、堀越、どうしたの、急に」

「勝負なんかしないで、敬遠すればよかったんだ。僕が、判断を間違えた……」

「え?…け…けい、え………ん?」

 

 決勝戦は、なかなか勝負がつかず、10回まで続いたらしい。

三谷は、全部投げきったんだとか。

それで、相手の要注意人物、4番の2年、中野って人がいるんだけど、その人にも三谷の球は打てなかった。

三谷は無失点で9回裏まで頑張ったんだけど、やっぱり疲れが出てきたみたい。

監督に、中野は敬遠をするように言われて……

堀越には分かったみたい。

三谷は、絶対に、敬遠したくない、って。

でも、監督に言われてるんだし、敬遠をしなきゃだめ。

そんなの、三谷にも、堀越にも分かってた。

だけど、堀越は三谷の気持ちを大切にしたいから、っていう理由で、勝負することに。

三谷の球の威力は、全然落ちていなかった。

「ストライク!!」

 いける。

第2球目、堀越はアウトコースのサインを出した。

三谷の球は、堀越のミットにおさまった。

 次は……… インコース低め。

これが、間違いだった。

三谷の投げた球は、堀越のミットに触れもしなかった。

中野って人は、ホームランを打った。

最初から、インコースを狙っていたらしい。

堀越は、三谷に謝ることすらできなかったって。

 

「堀越が気にすることないじゃん。あの試合で、甲子園決まるわけじゃないんでしょ?」

「でも、康介のプライドが…」

「あいつのプライドなんかズタンズタンに傷付けてやれ」

「…ず、ズタンズタンって……」

「え?じゃぁズッタンズッタン?メッタメタ?ギッタギタ?」

「いや、そういうことを言ってるんじゃないんだけどね?」

「ごめん、あたし国語力無いからさ」

「高杉さんらしいや」

 堀越が笑った。

「バッテリーは夫婦みたいなもんなんでしょ?片方が悪いんなら、二人とも悪い。嬉しいことは2倍にして、悲しいことは半分にしてあげたらいいじゃん」

「…た、高杉さん…っ」

「そーゆこと。堀越の所為でも、三谷の所為でもないよ」

「…ありがとう」

「いーえいーえ。三谷、励ましといてあげてね」

「了解」

 

 

 電話のあと、堀越と三谷がどんな話をしたのかなんて知らないけど、帰ってきた三谷は元気だった。

で、春期甲子園に向けて頑張る、ってさ。

それで、朝練の時間を延ばすとか言って、朝早く出るらしい。

よし、あたし、自転車に乗せて貰うためにも明日から早く起きなきゃ。

 

 

 

 

 

「三谷―――!!!!」

 寝坊したぁぁっ!!

あたしのバカー つーか三谷死ねぇっ!!!

とか訳の分からんないコト思いながら、そして三谷ーと叫びながら、あたしは階段をおりた。

「あら、香恋ちゃんおはよう。康輔ならさっき家出たわよ」

「え……?」

「高杉によろしくとか言って」

「………死ね三谷ぃぃぃぃ!!!!!!!」

 なによ――!!!

何が『高杉によろしく』なの?!ふざけんじゃねーよ!!!

あたしも一緒に行くって言ったのに!!

「あ、あと、康輔お弁当忘れて行っちゃったの。持っていってあげてくれない?」

「…………あぁのバカ今すぐ死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

  

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